怪怪怪怪物! レビュー 人間の悪意の塊を映像化した凄まじい作品

今回は2017年に公開された台湾映画「怪怪怪怪物!」のレビューです。タイトルにも書きましたが一言でいうと”人間の悪意の塊を映像化したもの”です。ぶっちゃけ内容はひどく暴力的で非道徳的な描写が多いため、グロい映像が苦手な人は避けた方がいいかもしれません。おもしろいという表現は出来ませんが映画としてはすごいといえます。ややネタバレを含むかもしれませんがレビューしたいと思います。

ネタバレは少しあるかもしれませんが、核心はずらしますので視聴に支障はきたさないと思います。

スタッフ・キャスト

スタッフ

  • 監督/脚本:ギデンズ・コー(九把刀)
  • プロデューサー:アンジー・チャイ(柴智屏)
  • 撮影監督:チョウ・イーシエン(周宜賢)
  • 編集:リー・ニエンシウ(李念修)
  • 美術監督:リャオ・ミンイー
  • 音楽:クリス・ホウ(侯志堅)

キャスト

リン・シューウェイ(林書偉)トン・ユィカイ(鄧育凱)
ドアン・レンハオ(段人豪)ケント・ツァイ(蔡凡熙)
リアオ・グオフォン(廖國峰)ジェームズ・ライ(賴浚程)
イエ・ウェイジュー(葉偉竹)タオ・ボーメン(陶柏萌)
班花ボニー・リャン(梁洳瑄)
怪物 姉ユージェニー・リウ(劉奕兒)
怪物 妹/リン・シウジェン(林秀珍)リン・ペイシン(林姵妡)
先生(班導師)
チェン・ペイチー(陳珮騏)
教室外の女子生徒(教室外女孩)高百合
リー・ロンフォン(李栄峰)乾德門

ギデンズ・コー監督作品

今回紹介する作品を撮ったのはギデンズ・コーという監督です。2011年製作の台湾映画”あの頃、君を追いかけた”を手掛けた監督で、その作品は日本でもリメイク版が作られるほど台湾で大ヒットした青春映画です。恋愛と友情と10代ならではのバカさなど青春要素が詰まりまくった胸がギュッと締め付けられるような作品で、べタなんですがちょうど監督と同じくらいの世代には突き刺さる内容です。

悪意の塊

今回の”怪怪怪怪物!”は上で紹介した青春映画とは打って変わってかなりハードなホラーです。いわゆる”怖い”を目的としたホラーではなくかなりメッセージ性が強いです。僕が感じたテーマの本質はやはり”人間の中にある悪意”です。

主人公である高校生リンはクラスでひどいいじめを受けていた。そのいじめがひどく、人間の集団心理の恐ろしさ、傍観する教師のクズっぷりが描かれる。ある日学級費を盗んだ濡れ衣を着せられ罰として独居老人を奉仕するボランティアを命じられる。それにいじめの主犯格であるクラスメイト3人も同行するのだが、そこで認知症の老人たちをおもちゃとして遊ぶ場面が繰り広げられる。見るに堪えないレベルの胸糞悪い描写が連続する。かなり非道徳的でそこに面白さを感じる人はいないと思われる。”怖い”も”おもしろい”もないただ不快である。

凄惨な暴力的描写

その独居老人たちの住む建物に2匹のモンスターが住み着いており、そのうちの一匹を偶発的に捕らえることとなる。そこからそのいじめっ子たちのリンチが始まる。そのモンスターに対するリンチがとにかくひどい。凄惨な暴力的描写がそこからまた長く映される。相当不快です。いわゆる「いじめ」というものの構図と心理が嫌なほどリアルに描かれる。僕らが生きる世界も例外ではなく、学生はもとより社会人となっても大なり小なり「いじめ」は存在する。攻撃の対象を作ることで自分のヒエラルキーが高いと思い込み、また周囲にも思い込ませたいのです。僕の経験上そういうことをやっている人は一見仕事ができるように振舞っていますが、実際は仕事における能力値が低く、絶対的な知識量も枯渇している方が大半でした。心のどこかにそのコンプレックスがあり、それを打開するために学習や努力という方法をとることができず、安易に他者を攻撃するという手段を選んでいるのかもしれません。

主人公はいじめの対象がモンスターに変わったため、いじめをする側に立つのですがどうしてもその行為が出来ず葛藤します。他者をいたぶることで快楽など得られないため苦悩するのです。傍観者や本意ではなくいじめに加担する人間の心理描写がここではあります。どのような理由があっても「いじめ」という理不尽な行為は肯定できませんが。

人間の業(ごう)

リンチを受けているモンスターを助けるため、仲間のモンスターは必死に探し続けます。仲間を助けるため怒りに満ちたモンスターは人々を襲います。そこからクライマックスになります。いじめを行っていた若者たちはそのモンスターをおびき寄せ、捕らえたモンスターとともに抹殺する計画を立てるのですが、並行して主人公はモンスターを救う方法を思索します。そこからのストーリーはネタバレするので伏せます。

一部悪意のない人間も登場しますがその一縷の希望をすべて塗りつくすほどの悪意。それが最初から最後まで続く。

主人公は終始心のどこかでは善であろうともがきながらも結果的には悪に加担してしまうことに苦しみます。人間は完璧ではないので誰しもそのような感情を抱くことはあると思います。良くないとわかっていながら目を伏せ暗黙の了解として物事を進めてしまう。その人間のズルさや弱さもこの映画で改めて考えさせられました。

結果的にすごい映画である

この映画を観るにあたり楽しむという感情を持つことは正直できません。エンターテイメントとも言えません。”圧倒的に理不尽な悪意”を反面教師という意味で描き、世に警鐘を鳴らしていると受け取るのがベストでしょう。理屈を抜きにしても単純に圧倒的なエネルギー量と破壊力がある映像で、これを実際に作り上げたことはただただすごいと思います。映画とは自由なものですが、明らかに賛否が分かれると作る前からわかっているものを最後まで作りきる熱量、そしてクオリティには脱帽します。ダンサーインザダークなどを筆頭に救いのない映画というものは定期的に生まれますが、絶望的なほどの人間の悪をここまで激しく描いた映画は久しぶりです。

今回ばかりは簡単に”おすすめです”とは言えませんが興味のある方はご覧になってください。ただまともな倫理観がある方は苦痛だと思いますので覚悟の上見てください。

アマゾンプライムで観れます↓↓↓2020年4月現在)

amazonプライムで視聴

<購入>