齊藤 工さんの監督作品、blank13を観ました。いい意味で裏切られ、とても斬新な面白さがありました。原作は、はしもとこうじさんという放送作家さんで、彼の実体験に基づいたストーリーということでした。この映画は70分の作品でややコンパクトながらもキャスト陣が僕としてはえぐいのでかなり印象的な作品でした。
トリッキーなキャスト陣
高橋一生
松岡茉優 斎藤 工 神野三鈴
大西利空 北藤 遼
織本順吉 村上 淳 神戸 浩 伊藤沙莉 川瀬陽太
岡田将孝(Chim↑Pom)くっきー(野性爆弾)
大水洋介(ラバーガール) 昼メシくん 永野
ミラクルひかる 曇天三男坊
豪起 福士誠治 大竹浩一 細田香菜
小築舞衣 田中千空
蛭子能収 杉作J太郎 波岡一喜
森田哲矢(さらば青春の光)
榊 英雄 金子ノブアキ 村中玲子
佐藤二朗 リリー・フランキー
上記されたキャストの名前を見ただけで、分かる人はかなり興味をそそられると思います。
高橋一生さんや監督でもある斎藤工さん、そして松岡茉優さんなど今まさに一線で活躍されている俳優さん達だけでなく、佐藤二郎さんとか神戸さんとか、他にも名だたる個性派俳優さん達が出演しています。
映画の中心人物となるリリー・フランキーさんは本業はイラストレーターですが、いまや数々の賞をとる実力派俳優となりました。この作品でも味のある演技をされています。
他は芸人ながら演技に評価の高いラバーガールの大水さんや、野性爆弾のくっきーさん、蛭子さんに杉作J太郎さんなどそれぞれの分野で異彩を放っている表現者の方々が多く出演されています。
純文学的ストーリー
この作品は主人公である高橋一生さんの父親役であるリリーフランキーさんを中心に進んでいきます。リリーさんは絵にかいたようなダメ親父を演じておられるのですが、その軽佻な感じがすごくナチュラルで上手いです。借金まみれのダメ人間である父親に振り回され、不幸のどん底を味わう家族が描かれています。斎藤 工さん高橋一生さん演じる兄弟と母役の神野三鈴さんがそのせいで極貧生活を余儀なくされ、そのまま父は蒸発するのです。その後時は経ち、父が床にふせた時に再開するのですがすぐに父は命を落とします。息子二人は父のせいで悲惨な幼少期を送っていますので、父のことを恨んでいました。人を愛するということは、家族という単位では当たり前のようですが、簡単ではありません。血のつながった親であれば何があっても最後には愛情をもって悲しめるのだろうか。きれいごと抜きで考えるとすべての人がそうではないと思います。この兄弟もそうです。幼少期に父との美しい思い出も確かにあるが、それを帳消しにするほどの悲しみがありました。だれもがすべてを許せる力はありません。ひとかけらの愛情と憎しみが葛藤し、混沌とした感情に包まれる様子が描かれます。初めから見ていると、この感情の揺れ動きを過去と未来の情景描写とともに繊細に描かれており、上質な純文学小説を読んでいるようでした。
コメディそしてエンターテイメント
途中までは本当に淡々と心象風景を描く純文学的な映画でしたが、個性派キャスト陣が顔を出し始めてからそれが一気に崩れだします。父の葬儀の場面で、数少ない父の関係者たちによるご焼香のシーンがあります。静まり返るおごそかな雰囲気の中で、それは始まります。いきなりコメディ前回の即興劇です。佐藤二朗さんがいらっしゃるので勇者ヨシヒコと仏とのあの寸劇を思い出します。あんなノリです。ここまでどちらかというと暗いフランス映画のような画で進んできた映画にヨシヒコチックな即興劇、斬新でした。ある意味やられたと思いました。斎藤工さんという人は本当に面白い人だなと思いました。あの展開を撮るのは非常に勇気がいるはずだ。ケースによってはスポンサーや会社とのやり取りで消えてしまうような展開ですが、映画作りに携わった方々みんなが共通認識としてそのセンスと面白さのベクトルを持ち合わせていたのでしょう。それなら素晴らしいチームで映画を撮られているのだと思います。そしてそのような仲間を集めることができる斎藤工さんの人徳も素晴らしいと思いました。
ストーリーはその即興劇から心を揺れ動かされる兄弟をまた描き出します。人の心はなかなか動かせないが、動き出すときは一気に動きます。その狭間の葛藤がとてもよく描かれた映画でした。
ハイセンスな音楽
他の部分に触れますとこの映画の音楽担当はRIZEの金子ノブアキさんです。俳優としても多く活躍され、本編にも少しですが出演されています。個人的にかなり熱い人選です。
あと外せないのがこの映画の主題歌です。笹川美和さんというシンガーソングライターの方がある曲のカバーを歌われているのですが、その曲がハナレグミの「家族の風景」なのです。正直このセンスにやられました。原曲はハナレグミこと永積タカシさんのソロ曲です。少し彼の話しをさせて下さい。僕はこの曲が彼のソロでは一番好きで、SUPER BUTTER DOG活動休止後にハナレグミ名義で出したファーストアルバム「音タイム」に収録されていました。確か当時自宅録音で作ったと話されていたと思います。アルバムを買って初めて聞いたとき、ノリノリのファンクバンドから一転して音数の少ないブルージーでしっとりした美しい曲調に驚きとともに心を鷲づかみにされたのを覚えています。今回カバーされている笹川美和さんの歌声もとても儚げで心地よく、一つの家族を描き出すこの映画の雰囲気にベストマッチしておりこれ以上の選曲はないと思いました。
まとめ
この映画は世界から高い評価を得ており
第20回上海国際映画祭アジア新人賞部門で最優秀監督賞受賞(日本人俳優として初)
第15回ウラジオストク国際映画祭にて、高橋一生さん、リリー・フランキーさん、斎藤工さんの3人が最優秀男優賞トリプル受賞(日本人初&映画祭史上初)
第3回シドニー・インディ映画祭では4部門[最優秀脚本賞/最優秀楽曲賞/最優秀編集賞/最優秀ドラマ賞]にノミネートされ[最優秀脚本賞]受賞
など数々の賞も受賞しています。
ありきたりなエンターテイメントではなく、奇をてらったシュールレアリズムでもなく、古典的な純文学作品でもないが、印象的な心象風景描写にどこか馴染みのある普遍的な要素を持った類を見ない傑作だと思います。この映画、そして監督である齊藤工さんはこれからの映画産業に一石といわず何石も投じてくれると思います。これからの活躍に期待しています。
興味のある方は是非一度ご覧ください。
それではまた。
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