君が君で君だ レビュー 常識や倫理を超えた異常な純愛

今回は松居大悟監督の映画「君が君で君だ」のレビューです。タイトル通り常識とか倫理とかそういう次元を超えた強烈な純愛を描いた映画でした。非道徳で異常な描写が多いのに観終わると胸が熱くなる不思議な力を持っています。それでは紹介していきます。

概要

  • 【公開日】2018年7月公開
  • 制作プロダクション:レスパスフィルム
  • 配給:ティ・ジョイ
  • 製作:「君が君で君だ」製作委員会(東映ビデオ / 電通 / 東京メトロポリタンテレビジョン)

監督・脚本

監督・原作・脚本 : 松居大悟

1985年生まれ。福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。 2012年に『アフロ田中』で長編映画初監督。その後、『スイートプールサイド』『自分の事ばかりで情けなくなるよ』など作品を発表し、『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『アズミ・ハルコは行方不明』は東京国際映画祭・ロッテルダム国際映画祭出品。中高生の一ヶ月間を74分ワンカットで撮った『アイスと雨音』は、韓国・中国・ドイツの映画祭でも上映された。枠に捉われない作風は国内外から評価が高く、ミュージックビデオ制作やドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズなど活動は多岐に渡る。パーソナリティを務めるJ-WAVE「JUMP OVER」は毎週日曜23時から放送中。

https://kimikimikimi.jp/

キャスト

  • 尾崎豊:池松壮亮
  • ブラピ:満島真之介
  • 坂本龍馬:大倉孝二
  • 姫:キム・コッピ
  • 宗太:高杉真宙
  • 友枝:向井理
  • 星野:YOU

ストーリー

恋する女性ソン(キム・コッピ)の好きな人物に成り切って自分の名前を捨て、尾崎豊(池松壮亮)、ブラピ(満島真之介)、坂本龍馬(大倉孝二)として10年間彼女を見つめ続けてきた。 彼らは、彼女のあとをつけて、こっそり写真を撮る。彼女と同じ時間に同じ食べものを食べる。向かい合うアパートの一室に身を潜め、決して、彼女にその存在をバレることもなく暮らしてきた。しかし、そんなある日、彼女への借金の取り立てが突如彼らの前に現れ、3人の歯車が狂い出し、物語は大いなる騒動へと発展していく…

ストーカーが題材

この映画一言で表現するならばストーカーの映画。身も蓋もない言い方だがゴリゴリのストーカー達を生々しく描いたもの。だいぶ倫理観の崩れた不快な映像が並んでいるはずなのだが、なぜだか観終わった後は嫌悪感とかではなく胸がキュッと締め付けられる熱い想いが生まれる。もしかしたら不謹慎に思われるかもしれないがそれが正直な感想。

ストーキングをしているのは尾崎豊(池松壮亮)、ブラピ(満島真之介)、坂本龍馬(大倉孝二)の3人。彼らは姫と崇める女性ソンの好きな人物である、「尾崎豊」「ブラピ」「坂本龍馬」に自らがなりきり生きるのだ。自分というものを捨て去り、彼女のためだけに生きる。この始まりだけで相当どうかしている。彼女の住むマンションの向かいにアパートを構え、盗撮、盗聴により彼女の動向をすべて把握し彼女と同じ時間に同じものを食べる。それを10年間も続けているのだ。ストーカーというカテゴリーに入りきれないくらいの異常性だがコメディタッチに撮られているため鑑賞に堪えうるようになっている。(エンターテイメント作品なので当然といえば当然だが)

すべてを受け入れる愛

この映画を通して観ていて一番ガツンと感じたのは彼らの彼女に対する姿勢だ。受け入れ方。人は好きなものや好きな人が出来ると必ず各々の頭の中でその理想を作り、当てはめる。対象に深入りしない、あるいは出来ない立場であればその理想を継続させられるので幸せだ。アイドルを好きになるのと同じで、表面的な部分だけを見ているうちはいい。だがその理想のアイドルと実際に身近な関係になってしまったら、見たくない裏側をたくさん見てしまい理想はもろくも崩れさり落胆するかもしれない。どんなに人気のあるアイドルでも道徳に反するような犯罪を犯した場合多くのファンは幻滅し去っていくだろう。それは至極当然の感情である。しかしこの映画の中の彼らは違う。10年間彼女を見守るうちに彼女のいいところだけでなく、意地悪なところ、ズルいところ、人間としての卑しい悪の部分もすべて見てきた。幻滅してしまうような本来なら見たくないはずの人間の裏側も全部見たうえで、それらをひっくるめて彼女を受け入れる。醜い部分も全部込みで彼女だと受け入れ、愛する。キリストがすべてを赦すような境地だ。この境地で人を愛することは容易ではない。だが彼らはそれをやってのけるのだ。

純愛の定義

本当の純愛というものはそういうものかもしれない。究極に追い続けた純愛はこの世界ではおぞましい行為に映るのだろう。社会という基盤で考えると倫理に反しまくった犯罪者である。その犯罪者の様々な悪事を見せられたにも関わらず、嫌悪感ではない情熱に近いものが胸を打つのは心のどこかでその行為が美しい本当の純愛だと感じているからだろう。純愛とは法律とか社会規範ではくくれないさらに別次元にあるものだと考えさせられる。ストーリーや設定など突き詰めれば破綻している部分を感じる方もいるだろう。だがこの映画の本質はそこではない。そんなところをわざわざつつく必要はない。大事なのはいかにおぞましく美しい純愛を感じさせるかである。

まとめ

今回は「君が君で君だ」という松居大悟監督のオリジナルストーリーの映画のレビューでした。かなり屈折していますが強烈な純愛を描いた映画です。興味を持たれた方は是非ご覧になってみてください。もしかしたら不快感を覚えるだけの方もいらっしゃるかもしれません。その時はすみません。でもそういうのも含めて映画だと思ってます。それも醍醐味です。

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